今週の書評で気になった本 2月第4週

2月24日(土)毎日新聞書評欄より


書名:限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話

著者:吉川祐介

出版社:朝日新聞出版

価格:957円(税込)

ISBN:978-4-02-295252-3

限界集落、という言葉を聞いたことがある人はいると思う。

人口減と少子高齢化、インフラ設備の老朽化、産業の衰退などの要因が合わさって、もはやひとつの共同体としての存続が非常に危ぶまれる集落のことを指す。言葉そのものは存外古く、1988年に社会学者の大野晃が提唱したのが最初だとか。無論この問題は解決するどころかますます深刻化している。

その一方で、いわゆる限界集落的なイメージとして想起されるような環境(なんとなくだけど大抵はなぜか「山奥にある集落」がイメージされるような気がする)とは全く違い、確かに駅から遠かったり路線バスが少なくなっていたりはするけれど別に住めなくもないよね、くらいの住宅地にも"限界"が冠される場合がある。

1970年代半ばから80年代に開発され、そして投機目的で分譲された、売る側も買う側も「住むこと」を前提とせずに造成され売買された住宅地。今や売買もろくに行える価値はなく、持て余している間にどんどんと荒廃が進んでいく土地と家屋。そもそも持ち主が誰なのか定かではないこともあり、権利関係の清算業務すらまともに手を付けられない。

本書は、自身もそんな”限界分譲地”に住む著者が書いた一冊。YouTubeチャンネルも持っていて、凡庸と独特の間にあるような不思議な語り口で継がれる限界分譲地の現状は、現代社会の日本の一側面であり深刻な事態であることを理解する一方で、ドキュメンタリー作品を見ているようで大変面白い。



いつもに比べて文字情報が多いことから察せられますが、著者のYouTubeの愛聴者です、ハイ。

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